東京家庭裁判所 昭和43年(少ハ)46号 決定 1968年10月22日
本人 M・H(昭二二・一〇・二二生)
主文
本人を昭和四四年四月二一日まで少年院に継続して収容することができる。
一、申請理由の要旨
本人は、昭和四一年六月三日、住居侵入保護事件にて東京家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、岡山少年院に収容されたが、成績不良のため翌年三月一六日新光学院に移送された。しかし、その後も反則事故はやまず成績が向上しないため昭和四二年一〇月五日、東京家庭裁判所より収容継続の決定を受け、その期間を昭和四三年一〇月二二日までと定められた。しかし、その後も、反省意欲に乏しく制服ズボンの不正寝敷、態度不良、喧嘩の加勢等と反則事故を続け、院長訓戒二回、僅慎二回の処分を受けて通業停止、減点の措置があつたため進級が遅れ、本年七月一日ようやく一級下に進級したもので、入院後約二年四ヵ月を経過しているが、なお犯罪的傾向は未だ除去されたとは考えられない。
よつて、今後なお引き続き矯正教育を施す必要があると思料するので、少年院法第一一条第二項により収容継続の申請をする。
二、理由
本人に対し既に昭和四二年一〇月五日、東京家庭裁判所によつて収容継続決定のなされたことは本件記録によつて明らかである。従つて本収容継続の申請は再度の申請である。よつてまず再度の収容継続申請が許されるかどうかについて判断する。収容継続について少年院法第一一条によれば、少年院の在院者が満二〇歳に達したときは少年院長はこれを退院させなければならないが、在院者の心身に著しい故障があり、又は犯罪的傾向がまだ矯正されていないため、少年院から退院させるに不適当であると認めるときは、収容を継続すべき旨の申請をしなければならないと規定している。再度の申請についてはこれを制限する規定はない。ただ同条第五項は二三歳に達する在院者に精神に著しい故障があり、公共の福祉のため少年院から退院させるに不適当であると認めるときは、二六歳を越えない期間を定めて医療少年院に収容継続すべき旨を規定しており、これは年齢から判断して既に収容継続された者について更に収容継続を申請する場合の規定であることは明らかである。同条第五項の規定を制限的規定と解するならば、この規定によるの外再度の収容継続は許されないことになる。しかし、同条第四項には収容継続の期間は二三歳に限る旨の規定があり、同条第五項はその年齢の上限の例外を定めた規定とも解することができる。又収容継続について二三歳まで三年の幅を認めたことは、少年院での教育期間が通常一年前後で仮退院を認めていることから判断して、一度の収容継続の期間の幅としては長きに過ぎる感があり、このように長期間の収容継続を認めることは少年の保護のため適当でなく、むしろ、収容継続をしたがなお、上記のような事由により退院が不適当である場合に更に収容継続を認めることのできる趣旨で三年という比較的長い期間を認めたものと解するのが相当でなかろうか。いずれにしても少年院法第一一条の文理解釈では、第五項の場合を除いて重ねての収容継続が許されるかどうかは判断できかねるので、少年保護の目的から必要であるか否かによつて判断するのほかない。上記のように年齢の上限について原則として二三歳と制限しているのであるから保護の名において少年の人権の侵害されることのないよう一応保障されていると考えられるし、個々のケースに応じ重ねての収容継続が必要な場合にはこれを認めることの方が少年の保護のため相当と考えるので、再度の申請は許されるものと解する。よつて本収容継続の申請は適法であるから次にその収容継続の必要性について判断する。
本人に関する社会調査記録の記載、少年院の島崎分類保護課長、梅村作業担当教官の各陳述、当裁判所家庭裁判所調査官森次郎の調査結果及び本人の陳述によれば次の事実が認められる。本人は前件により松山少年院に送致された際は反則もなく少年院の生活に適応して一年足らずで仮退院したこと、ところがその後僅か二ヵ月余りで再び生活が乱れ住居侵入により今回の中等少年院送致決定を受け岡山少年院に入院してからは、自棄的となつたこともあつて少年院の生活に順応せず反則をくり返し、一〇ヵ月程で特別少年院である新光学院に移送され、その後も反則をくり返して進級が遅れ、期間を一年延長する旨の収容継続がなされたこと、本人は新光学院での集団生活に堪えず、独居生活を希望する余り殊更に反則を犯して長期に亙り独居生活をしていたが、本年五月二一日にやつと集団生活に戻り、その後は生活態度もやや安定し、又担当教官との人間関係も良好になつて教育効果が認められ始めたこと、しかし、その後も些細なことで口論、嘩喧加勢等の反則を犯し減点され未だに一級下に止つていること、少年の知能は限界級で、小学四年頃から怠学が多く中学校も卒業していないため思慮が浅い上に、性格は自我の発達が未熟で、自主性に欠け、対人関係において緊張し易く、些細なことで傷つき逃避的になつて家出、放浪をくり返して来たこと、少年の家庭は実父、継母、異母弟で、父は漁業に従事しており最近は少年の更正に意欲をもつているが、少年のもつ問題点を理解し指導するだけの保護能力は期待できない。以上の事実を綜合して次のように判断する。
少年は低い知能と偏りの大きい性格のため社会に適応する能力が極めて低く、この点は前件により送致された松山少年院での教育も、反則は見られなかつたにしても矯正効果は上つていないこと、新光学院においては著しく集団生活に適応できなかつたが、年齢と共に或程度の自省力もつき、最近では改善の意欲が見られること、既に二年五ヵ月も少年院の教育を受けており、もしそこでの教育が効果の上らぬものであれば、これ以上少年院に収容しておくことは無意味であるが、今迄の不適応状態を経過して上記のように最近は改善の意欲が見られるので、この際今少し少年院での教育を続けるならば、長期に互る少年院の生活により教育効果を上げることが可能と考えられる。更に又家庭の保護能力の低さから判断して、家庭に帰つた後しばらくは保護観察を付し、社会生活への順応を見守ることが必要と判断される。
よつて少年院での教育及び仮退院後保護観察に付する期間を約六ヵ月とし、昭和四四年四月二一日まで更に収容を継続することとして少年院法第一一条第四項に従い主文のとおり決定する。
(裁判官 三渕嘉子)